「日本とドイツ間の相違が生む、あなたのお口に入るセラッミクス等について」 ドイツマイスター Ztm.大畠一成
日本とドイツはよく似ていると言われますが、腰を据えてつぶさに観察すると、生活、文化、政治、経済などのどれをとっても、その“発想の角度の違い”に驚かされます。私は40年以上の間、この両国間における歯科事情の相違を体験し、深く考察する機会を得ました。その結果、歯科における相違はもとより、人間の本質と尊厳、「人間が本当に暮らすということとは何なのか」が自ずと浮かび上がってくるように感じています。
ドイツにはマイスター制度というものが存在します。マイスター(日本でいう学士号相当)とは、「その道のプロ」たる職人(ゲゼレ)としての国家資格を修得し、その分野で十分な経験を積んで一流の技術を磨くことはもちろん、斯界の後進指導も行います。
これは、十字軍の遠征が行われた11世紀後半から続いているドイツ語圏の徒弟制度の伝統です。マイスター制度の受験にはそれぞれの専門課程(ラテン語を含む) に加えて、一般教養として財務、簿記などのマネジメント全般から経済学、社会法律学、法律学(民法、商法、労働法など)、さらには職業上の教育学に至るまでを習得することが求められ、一生に三度しか受けることが許されないマイスター試験が存在します。
その難関を突破してマイスターの称号を取得して初めて、斯界の手工業の親方として独立開業する権利が与えられます。
上掲した図01は私が日本人として初めて手にした「マイスター証書」です。またその25年間後(2017年)、未だにマイスターとして第1線で活躍し、ドイツ手工業会議所から認められたマイスターのみに贈られる賞が「シルバーマイスター証書(図02:日本人初。修士、博士号に相当)」です。これも周囲の方々から様々なご高配を賜ったからこその受賞です。
全ての関係者の皆様、とりわけプライムデンタルクリニック院長の野木洋正先生を始め、多くの方々からご理解およびご協力を賜りましたことに衷心より御礼を申し上げます。
■セラッミクスなど、あなたのお口の中に入るものとは?
ドイツには「安物買いをするほど、私はお金持ちではない!」という諺があります。これは「経済的負担の少ないものに皆が飛び付く傾向はやぶさかでないものの、安価なものは長期間の耐久性が期待できず、短期間のうちに壊れてしまう。そこでまた再度、新しいものを購入することになってしまいます。しかしながら、高級なものはそれなりにハイクオリティーかつ耐久性も向上していることから、長い目で見れば極めて安く付くものだ!」という意味を持ちます。患者様の口腔内に入る補綴装置も同様です。
安価な日本の保険(欧米の約10分の1以下)で治療したあなたのお口に入るものは、その素材の特性および歯科医師の先生方の尽力、時間や能力に適わぬ安い日本の健康保険点数からも壊れやすく、耐久性に劣ることが一般化できます。つまり、人々の健康を担保するには、程遠いものなのです。
例えば、上記のテーマにも既述した「セラミックス」補綴装置は保険こそ効きませんが、バイオフィルム(歯垢、歯石など)の付着が極めて少ない上に、高い信頼性と耐久性を有しながら、極めて強固なのです。同様に、歯の色調を 再現できる「レジン素材(ハイブリッド・セラミックスも含む)」の材料特性と比較すると、セラミックス素材は強度が高く、吸水性が無いことからも色素が沈着し難く、平たく言えば、色が変わらず、特に衛生的です。
言い換えれば、上図のようなレジン素材(図03)は暫く綺麗なのですが、強度的に脆弱で壊れやすく、吸水性を持つことから変色し、長持ちしません。
実際、ドイツでレジン素材を推奨された際には、患者様自らが「私の口の中に、プラスティックを入れるのですか!?」と激怒されます。したがって、仮歯でしか使用しません。
セラミックス材は最初、右図04のように白っぽいパウダー状のものを水で練り、各色調の粉を手作業で何層にも盛り上げて行きます。
それを真空下、約1,000℃で焼き、削合調整を繰り返して仕上げます。セラミックス材は主に金属酸化物からできた陶磁器のようなものです。また、セラミックス材と一括りにしてしまいますが、非常に大概的ながら、その種類は金属に焼き付けるメタルセラミックス、全てセラミックス製であるプレスセラミックスやジルコニアなど様々な種類があります。どれが一番良いという安易な選択肢はありません。その患者様の生活習慣や特徴等に適ったセラミックスを決定するためにも、歯科医師の先生方の優れた知識や経験が必要になるのです。
日本には2022年1月で歯科医院数が約6.8万医院もありますから、単に数からすれば、コンビニ件数を約1万以上も上回っています。その中で、傑出した歯科医院または歯科医師を探し出すことは極めて困難です。率直に言えば、素人である患者様、一人では残念ながらまず不可能です。私は「あの歯科医院の先生は人当たりが良く、優しく、痛くなく快適でした。また診て貰いたいと思います!」と言った患者様からの口コミを頻繫に目にします。では、優しく人当たりが良く、優しい先生が優れた歯科医師なのでしょうか……?私がプロとして助言できるとすれば、それは根本的に違います。
歯科医師の優劣は、その歯科医院の先生が持つ能力、知見および心情(こだわり)に依拠します。それらを考慮すれば、歯に関する知識、手技、経験およびこだわりを持っておられる方は、非常に少数です。プライムデンタルクリニック院長の野木先生は、そこに当てはまる数少ない方と言えるでしょう。私はドイツから帰国して、既に先生と20年以上の付き合いですから、よく周知しております。決して、いつも人当たりに優れているとは言いませんが、経済性は無視しても、歯と真摯に向き合い、深い知見と能力を持ち合わせた方です。それこそが真のホスピタリティーではないでしょうか。
多くの先人たちが積み重ねてきた各論理を深く理解し、術者の自己満足に陥らず、患者様、歯科医師の先生方、歯科衛生士および歯科技工士が協同した治療は、人にとって最も重要な「食」に直結したきわめて大切なことであると考えます。我々はその協同作業を通して、クリエイティブな治療や補綴装置を供与し続けることが、人々の健やかな生活や生命を支えていく上で、何よりも重要なことであると思う所存です。